解熱鎮痛薬の売れ筋&注目商品

 アメリカ人は解熱鎮痛剤をよく使う。年間の販売個数は4億個に迫る量で、赤ちゃんからお年寄りまでの米国民が1人で2パッケージを年間に購入している勘定になる。

 それだけではない。COSTCOなどのメンバーシップホールセールクラブへ行くと、タイレノールの500錠入やアドヴィルの300錠パッケージといった、大容量品がバンバン売れているのだ。


 昔のことだが、私が米ドラッグストアで働いていた当時、店内にはソーダーファウンテンがあって、朝早くからカウンター周りは地元の客で一杯になったものだ。この時代の薬局はコミュニティの情報の場であり、良き人間関係を作るミーティングの場でもあった。午後には学校から帰宅した子供たちが、涼しさを求めて冷たいソーダーやアイスクリームを食べに来たし、カウンターのガラス瓶に入ったラリーポップを買って帰るのが田舎町の子供らにとって唯一の楽しみだった。ドラッグストアにとっての良き時代を思いだす。

しばしば調剤室を抜け出しソーダーファウンテンの中に入り込むと、驚くことに「ブロモセルツァー」や「アリカセルツァー」の注文が飛び込んでくる。冷たい水に溶かして一気飲みする解熱鎮痛剤だが、150セントほどの異質な飲み物は良く売れたものだ。確かに二日酔いで頭がガンガンするときなど、シュワーッと炭酸ガスが立ちのぼり、それに氷とライムを混ぜると実に美味しい飲み物で早く効いた。ボスに向かい驚きと共にその理由を尋ねると、「アメリカ人は短い間に、多くの民族の血が混じったため血が濃くなって、頭痛持ちが多いんだよ」と聞かされたことを思い出す。ヨーロッパから移民して来た人々にとって、具合が悪くなったときに飲む万能薬は唯一アスピリンであった。発熱や頭痛は勿論のこと、腰痛・生理痛などのあらゆる痛み、また元気を出したいときやムシャクシャする時にも飲む。なんと胃やお腹の痛みにまで飲んでいる人が沢山いるのには驚かされる。




 解熱鎮痛薬市場の大きな特徴は、25千万ドルに上るストアブランドの高さだろう。これはストアロイヤリティの高さから来る信頼が根底にあって、あの店が販売する商品だから安心だという消費者心理が働いている。またナショナルブランド商品との価格差が30%以上あることも経済感覚の鋭い米国人から受け入れられている。提供方法においてナショナルブランドとの徹底した比較陳列を実施しているのも大きい。そこには「タイレノールと比較してお金を節約してください」表示され、パッケージには「満足いただけないときはお金をお返しいたします」と書かれている。その陳列方法は必ずナショナルブランドの右側で、大容量から左に向かって並べられる。視覚から脳への伝達が行われると、右側の商品に興味を示すし手も出やすくなる。
米国人がOTCに支払う金額は年間200ドルと大きいため、大手チェンはストアブランド化に力を注いでいる。それは顧客の固定化を図る差別化商品、競争に打ち勝つための安価な商品、ナショナルブランドを当て馬にした商品の3ラインに分かれている。ランキングには登場していないが、発熱、軽度から中等度の痛み、炎症、生理痛に購入されている新成分にケトプロフェン(25 mg)がある。ActronOrudis KTがこれで、発売以来地道な成長を続けている。



<アメリカの解熱鎮痛剤売れ筋商品>

1位 Tylenol MCN-PPC Inc.
 タイレノールは米国においてナンバーワンの解熱鎮痛剤として、また世界最大のヘルスケアブランドとして現在世界46ヶ国で販売されている。日本においては、「空腹時でものめる」唯一の頭痛薬として販売されたが、200410月よりJ&J社は武田薬品との提携を解消し直販に踏み切った。19821986年に起きたタイレノール毒入り事件を機に、異物混入を防ぐ更なる強化策として、剤型をカプセルからバンデージカプセル、そしてキャプレットに変更し、更にはジェルキャップを開発した。子供用のChildren's Tylenolは乳幼児の歯の生えてくる時や、予防接種の前にタイレノールを勧めるドクターが多い。しかしアセトアミノフェンが劇症肝炎を引き起こすことが問題になり、かってのような勢いは見られない。売上は29740万ドル(占拠率14.7%)、個数ベースで4910万個(占拠率12.9%)と大きく後退している。2002年に開かれたタイレノール裁判は、夕食で2〜4杯のワインを飲む39歳の男性が、タイレノールを飲みトラブルに巻き込まれた。男性は肝臓の衰弱を起こし、生命を救うために臓器移植を受けた。その男性はメーカーを訴え、マクニール社はアセトアミノフェンと劇症肝炎の因果関係を認め、数百万ドルの賠償金を支払った。以後、パッケージには肝臓疾患のある人は医師に相談してから服用する旨の表示が加わった。写真の製品は650mgアセトアミノフェンを増量した8時間持続型の新製品で、久々のヒット商品である。

2 Advil Wyeth Consumer Healthcare
 米国においてRx-to-OTCスイッチが進み出したのは197699日のこと。マレイン酸クロスフェニラミンや塩酸シュードエフェドリンなど6成分の抗ヒスタミン剤をFDAは一般用医薬品に使用することを承認した。その後22成分がOTCに使えるようになったが、1984518日には消炎鎮痛解熱成分のイブプロフェンが認められ、「ビッグスイッチ」と言われるほど、解熱鎮痛剤市場は大きな前進を見せ始めた。先鞭を切って上市したのはホワイトホールの「アドヴィル」とブリストルマイヤースクイブの「ニュープリン」であった。アドヴィルは生理痛・頭痛・関節痛などの痛み止めの最高傑作と賞賛されるほどで、どの家庭にも必ず1本は常備されている。マーケットアプローチである「医師が推薦するNo.1の鎮痛剤」の効果と実績は、高品質で安全性が高い評価に結びつき、アスピリンよりもずっと胃にも優しいことから、たちまち上位にランキングされた。

参考品 Advilで成長目覚しい新商品
商品名 Advil Migraine Solubilized Ibuprofen 200 mg Liquid Filled Capsules

自らを「頭痛持ち」と思っている米国人は実に多い。この頭痛持ちの痛みの中にはいくつかの種類があるが、心身ともに悩まされるのが片頭痛だ。片頭痛は頭の片側からこめかみにかけて脈打つように「ズッキンズッキン」、「ガンガン」と痛み、ひどいときには日常生活が妨げられるほどの強さの痛みや、吐き気を伴ってとてもつらい。片頭痛は思春期から発症することが多く、アメリカ人の8%が罹患している。なかでも女性に多く発現し、その数は男性の4倍にものぼる。この片頭痛の薬効で始めて製造承認を取ったのが9位にランキングされるエキセドリンミグレインで、一時はベスト5にランキングされるほどの売れ行きだった。この片頭痛の緩和でイブプロフェンが承認され、アドヴィルは更に活気付いている。

3位 Aleve Bayer Corporation Consumer Care Division
商品名 AlevePain Reliever/Fever Reducer Caplets

主成分のナプロキセンはプロスタグランディン(PG)の合成酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害することにより、炎症や激しい痛みを抑制する。OTCのなかでは消炎、鎮痛、解熱作用において効き目が早いのが特徴的で、そのため関節リウマチ、変形性関節症、痛風発作、腰痛、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群などの痛みに利用されている。日本では田辺製薬から発売されている「ナイキサン」として知られているが、要処方せん薬(要指示、劇薬)に指定されている。副作用の発現率が高いことが心配されるが、これといった事故報告はない。市場は横ばいだが確かな効き目と大衆価格($5.93が評価されて15240万ドル(前年14320万ドル)を売っている。また販売個数も増えて2570万パッケージに上る。


4位 Tylenol PM MCN-PPC Inc.
商品名 Tylenol Extra Strength PM Pain Reliever/Sleep Aid Caplets

 タイレノールは45年にわたり世界の人から愛され続けてきた解熱鎮痛剤で、世界の消費量は2400億錠と大きい。これに塩酸ジフェンヒドラミンを配合したのがタイレノールPMで、痛みのためにまんじりと熟睡できない人から支持されている。米マーケットリサーチ会社が痛みで悩んでいる人5500人を対象に調査したところ、痛みのために眠れない人が30%に及ぶことが分かった。はじめてナイトタイム型を開発したのはブリストルマイヤースクイブ社のエキセドリンPMだった。FDAがクエン酸ジフェンヒドラミンを一般用に使用することを承認したのは1982423日のことで、これを76mg配合したエキセドリンPMはタイレノール市場を震撼とさせた。マクニール社は直ちに対抗品を上市させ、係争問題に発展するほどの激しい競合結果、タイレノールPMが今日の座を獲得した。コバルトブルーを基調に白と黄色のパッケージは安らぎ感があって見事だ。

5位 Bayer Bayer Corporation Consumer Care Division
商品名 Bayer Extra Strength Back & Body Pain Coated Caplets
バイエル社のアスピリンが開発されてから120年を迎えようとしている。その医学はアリストテレスの時代まで溯るが、紀元前に治療を目的として植えられた西洋柳はヨーロッパ各地で見ることが出来る。アスピリンは簡単な構造式で、ベンゼンを還元させた後に安息香酸を反応させると、サリチル酸が容易に作れる。これに酢酸を加えて加熱するとアセチル化されて純白のアセチルサリチル酸が得られる。薬剤師なら医薬品製造学で作らされた記憶も新しいことだろう。

だがバイエルのアスピリンとは比較にならないほど効きめが弱く、その秘密を調べるために多くの学者が奮闘した。その答えは白金の触媒を使うことで針状結晶が得られていたのだ。効き目において粉末結晶との差は明らかだった。第二次大戦後で敗れたドイツのバイエル社は、三国同盟を除く各国に没収されたが、長い時間をかけて全世界のバイエル製品を買い戻してきた。アスピリン500mgにカフェイン32.5mgを配合した処方は、歴史に残る名医薬品といえる。しかし胃粘膜を充血させる副作用から消費量は減少している。



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